「巨大なドラムセット」を語るとき、必ず名前が挙がるのがテリー・ボジオ(Terry John BozzioまたはTerry ’Ted’ Bozzio)、独特なセッティングだけでなくフレーズなどでも多くのドラマーに影響を与え続けるミュージシャンです。ジャズ、クラシックをベースにプログレッシブロックやオルタナディブロック界で活躍を続け、近年はその巨大ドラムセットでのソロ活動を中心に唯一無二の存在として注目を浴び続けています。
Terry Bozzio DW “Big Kit” 360⁰ Panorama Performance
1950年12月27日生 アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ
TV番組「ザ・ミッキー・マウス・クラブ」でのCubby O’Brien(カビー・オブライエン)の演奏を見たのをきっかけに、空き缶など楽器にみたてて組み上げたドラムセットで6才からドラムを叩き始めました。13歳の時にエド・サリヴァン・ショー(アメリカのバラエティーTV番組)で観たビートルズの演奏に感銘を受け、6か月のドラムレッスンを受けます。高校からは音楽を専攻し、大学ではドラムセット、打楽器全般、ティンパニの奨学金を受けて勉強しました。
1972年、ロックミュージカル「Godspell(ゴスペル)」などに参加後、地元のバンドでジャズやラテン音楽を演奏しました。
1974年にはテリーの初レコーディングとされるLuis Gasca(ルイス・ガスカ/サンタナとも共演したトランぺッター)のアルバム「Born To Love You(ボーン・トゥ・ラブ・ユー)」に参加します。
1975年、Frank Zappa(フランク・ザッパ)バンドのオーディションに合格。その後3年の在籍の間、10枚以上の作品に参加しました。
1976年のフランク・ザッパ唯一の来日公演でテリーは初来日を果たします。
1977年にはBrecker Brothers(ブレッカー・ブラザーズ)のアルバムとツアーに参加。
1978年にGroup87に参加後、ザッパバンドを退団。その年、Thin Lizzy(シン・リジ―)のオーディションを受け合格しますが加入には至りませんでした。
1979年、Bill Bruford(ビル・ブラフォード)の後任としてUKに加入し、アルバム2枚とツアーにも参加(テリー2度目の来日)しました。
1980年からは自身のリーダーバンド「Missing Persons(ミッシング・パーソンズ)」での活動で3枚のアルバムを残した後、1986年に解散。
1988年からソロドラマーとしての活動を開始します。ここでの「ソロドラマー」とは他の共演者とのアンサンブルではなく、ドラムセットだけで楽曲を表現するドラマーのことです。当然、ライブパフォーマンスもステージにはテリー一人きりです。その年、初めてのインストラクションビデオ「Solo Drums」を作成します。
1989年に発表されたJeff Beck(ジェフ・ベック)のアルバム「Jeff Beck’s Guitar Shop(邦題:ギター・ショップ)」ではグラミー賞(ベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門)を受賞し、3度目の来日も果たしています。1990年以降はソロパフォーマンスと並行してセッションも精力的に行っています。プロジェクトに名前が付いているものは「Lonely Bears(ロンリー・ベアーズ)」「Polytown」「Bozzio Levin Stevens」「Outtrio」、バンドのサポートとして「Duran Duran」「The Knack」「Korn」、またソロアーティストのサポートやセッションでは「Don Dokken」「Herbie Hancock」「Dweezil Zappa」「Richard Marx」「Steve Vai」「Hide」「樋口宗孝」「Billy Sheehan」「Jordan Rudess」「Vivian Campbell」と多岐にわたります。現在ソロ作品ではCDで10作品以上、DVDやBlu-rayなどの動画も4作品で観ることができます。
テリーは2009年に日本人女性と結婚しており、義娘のmarinaはメタルバンド「Aldious(アルディウス)」のドラマーです。最初の結婚は1979年で後に「ミッシング・パーソンズ」でボーカルを務めるDale Bozzio(デイル・ボジオ)と。2回目は1988年で、1990年に息子の「Raanen Bozzio(呼称不明)」が誕生しています。Raanenもドラマーとして活動しています。
Terry Bozzio – Slow Latin / Klangfarben Melodie
1975年のフランク・ザッパのドラマーオーディションにはたくさんのドラマーが集まっていたそうです。「Approximate」などの複雑な楽譜の初見演奏や様々なスタイルでの演奏を求められ、他のドラマーがドンドンと不合格の烙印を押される中、テリーはその難題に次々と応えていきました。テリーの演奏後、残りの25人ほどのドラマーはみな演奏を拒んだのだとか。そうして約3年間の在籍中、10枚以上のアルバムに参加し、70年代のフランク・ザッパの活動に大きく貢献しました。ザッパに出会うまではジャズとクラシックにしか興味がなかったそうですが、大きなホールで演奏するようになって、徐々にロックにも目覚めたそうです。特にテリーのために書かれたといわれる「Black Page」という曲は、ロック史上最難曲として現在も語り継がれています。タイトルの「Black Page」は、音数が多いので楽譜が音符で真っ黒になってしまったことから付けられたそうです。
Terry Bozzio Zappa’s” The Black Page”,
無理やりこじつければ「一人オーケストラ」と表現できるかもしれません。ドラムセットという名の「メロディー楽器」を演奏しているかのようです。ジャンル分けをすればロック、ジャズ、クラシック、ニューエイジにカテゴライズされるでしょうが、とにかくパターンやフレーズが難解。変拍子や奇数連符(*1)、をリニアフレーズ(*2)やオスティナート(*3)に乗せている印象です。
*1)1拍を5、7、9など奇数に均等に割った長さの音符
*2)別のドラムと音を重ねず、一音一音を連続して演奏するフレーズ
*3)一定のリズムパターンを繰り返し、それらに別の音を重ねていくこと
決まった音程にチューニングされたドラムをマリンバのように奏でていたかと思うと、高速シングルストロークでタム間を流れるように移動したり。また緻密に計算された複雑なフレーズを涼しい顔で演奏していたかと思えは、鬼の形相でシンバルを叩きまくる。一聴すると全てアドリブのようですが、ほぼ全ての曲は楽譜があるようです。
昔から特徴的なのは頭上高くセッティングされたシンバルです。特にチャイナシンバルを頭上に左右2枚セッティングするスタイルは多くのドラマーが真似をしています。また高いタムから低いタムまでの打面が、とてもなめらかな面を描くようにセッティングされており、フロアタムを使用していない現在は、まるで競技場のスタンドのようです。現在、テリーの巨大セットを組めるのは公式のドラムテック2名(うち1名は日本人)を含む3名のようです。
2012年の時点ではタム26個、スネア2個、バスドラム8個、シンバル53枚、またフットペダルは22個で、それらをバスドラムやハイハットだけでなく、パーカッション類の演奏にも使っています。
1995年からdwのセットを使っています。フランク・ザッパ期はGretsch(グレッチ)、UK期はSlingerland(スリンガーランド)とREMO(レモ)のロートタム、ミッシング・パーソンズ期にはTAMA(タマ)~REMO、そして1990年代前半からMAPEX(メイペックス)へと移ります。電子ドラムの導入にも積極的で、Syndrums(シンドラム)やSIMMONS(シモンズ)を使用しました。またオリジナルの電子ドラムのデザインをしたこともありました。
Missing Persons – Give
こちらのMVではテリー本人がデザインや開発に携わった電子ドラムが使用されています。
SABIAN(セイビアン)のRADIA(レイディア)シリーズを使っています。レイディアはテリーのシグネチャーモデルでエキゾチックな2トーンカラーのヴィジュアルが印象的です。音色はかなりダークで、どのモデルもサスティーンが短いのが特徴です。当初は何種類か販売されていましたが、現在(2018年)はカップチャイムが3種類のみ販売されています。以前はZildjian(ジルジャン)やPaiste(パイステ)を使用しており、パイステ使用時は黒くカラーリングされた「VISIONS(ヴィジョンズ)」というシリーズがシグネチャーモデルとして発売されていました。
現在は一本のチルター(シンバルの穴に通すロッド部分)に複数のシンバルをセッティングする方法を採用しています。一本のチルターに多いもので6枚セッティングしてあるものもあります。写真などから判断し、どのようにセッティングしてあるかを表にしました。大きく分けて、腕を高く振り上げて叩く「上段」と、タムの位置に近い部分にセッティングしてある「下段」に分けました。
※表中の「上部・下部」はチルター内での位置
※「上部・下部」に2枚のシンバルが表記されているものは
「スタック・シンバル(重ねシンバル)」です。
上部 | 下部 |
21″ride | ― |
8″china | 16″china |
10″china | 18″china |
7″china&6″crash | 14″china&12″crash |
8″china&7″crash | 16″china&14″crash |
10″china&8″crash | 18″china&16″crash |
12″china&10″crash | 20″china&18″crash |
12″china | 20″china |
14″china | 22″china |
上部 | 下部 |
Remo spoxe hi-hat | - |
13″hi-hats | - |
Sabian chopper&Factory metal cross | - |
6.5″cup chime | 9″heavy bell |
7″cup chime | 10″heavy bell |
7.5″cup chime | 11″heavy bell |
8″cup chime | 12″heavy bell |
※Sabian chopper:セイビアン社のエフェクトシンバル。ホワイトノイズが特徴
※Factory metal cross:ファクトリー社のX形パーカッション。ホワイトノイズが特徴
上部 | 中部 | 下部 |
Sabian chopper&Factory metal cross | 14″flat bottom hl-hats | 20″flat ride&20″china |
左 | 右 |
6″flat bottom mini hi-hat | 7″flat bottom mini hi-hat |
ATTACK(アタック)を使っており、スネアヘッドは1プライのコーテッドで、打面の中心にドットがついています。またタムは1プライのクリアでです。共にシグネチャーモデルです。
VIC FIRTH(ヴィック・ファース)のSTB1(テリー・ボジオモデル)を主に使っています。
太さ14mm×長さ412.8mm、チップは大き目で風船のような独特な形状です。前重心になっていてパワフルな演奏が可能です。
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1978年にリリースされた2枚組のライブアルバム。先述の難曲「Black Page」が2バージョン収録されているほか、「Titties & Beer」や「Punky’s Whips」など、テリーのボーカルも聴くことができます。CD発売前はレコードが絶版になっており、入手が大変困難でした。
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1978年にリリースされたライブアルバム。ブレッカー・ブラザーズの代表曲である「Skunk Funk」のライブ版、「Some Skunk Funk」が収録されています。またこの曲のほか「Inside Out」「Sponge」などスリリングな曲が目白押しの聴きごたえあるアルバムです。
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1982年にリリースされたミッシング・パーソンズのファーストアルバム。奇抜なファッションが注目されますが、メンバー5人のうち、テリーを含め3人がフランク・ザッパバンドの在籍経験者。他の2人もザッパのレコーディングに参加と、一筋縄ではいかない強者たち。ポップスの皮を被っていますが、いたる所にハイテクニカルなパターンやフレーズを聴くことができます。
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