プログレ界の実力者「ビル・ブルーフォード」

「Yes(イエス)」「King Crimson(キング・クリムゾン)」に在籍し「Genesis(ジェネシス)」のツアーサポートを務め上げるなど、プログレッシヴ・ロックにおいて重要なポストで活躍した実力者Bill Bruford(ビル・ブルーフォード、本名William Scott Bruford)。複雑なパターンやフレーズをクールに演奏する姿で多くのファンを魅了しました。名前の表記については、かつては「ブラフォード」や「ブラッフォード」と表記されることが多く、本人も気にしていました。しかし2012年に発行された自伝「Bill Bruford The Autobiography」の日本語版で、「ブルーフォード」の表記が採用されたことで、これが一般的となりました。

バイオグラフィー

1949年5月17日生 イギリス南西部・ケント郡セブンオークス
地元の獣医の三人兄弟の末っ子として生まれたブルーフォードは13才の時にドラムを始めます。テレビのジャズ番組を見たのがきっかけでした。姉から買ってもらったブラシでレコードのジャケットをスネアの代わりにし、テレビのジャズ番組に合わせて練習したそうです。その頃のお気に入りはGinger Baker(ジンジャー・ベイカー)、Art Blakey(アート・ブレイキー)、Joe Morello(ジョー・モレロ)、Max Roach(マック・スローチ)。後にクラシックの先生に付いてレッスンを受けたりもしました。

1968年、ブルーフォードが19才の時、イエスの前身となるバンドに加入します。ただ学業を優先するため一旦バンドを離れますが、すぐに復帰。バンド名も「イエス」に改まり、デビューとなります。在籍した1968~72年までの間に5枚のアルバムに参加しました。イエス脱退後はキング・クリムゾンに加入。1972~74年の間に3枚のスタジオアルバムと1枚のライブアルバムに参加。キング・クリムゾン解散後しばらくは、ブルーフォードはバンドに属さず、セッションドラマーとして活動をすることになります。

1981年にキング・クリムゾンに再加入するまでに、イエスのバンドメンバーのソロアルバムへの参加、Gong(ゴング)、Genesis(ジェネシス)のサポート、U.K.(ユー・ケー)や自身のバンドBruford(ブルーフォード)の結成と大変目まぐるしい活動でした。その後の流れとしてキング・クリムゾン(1981~85)、自身のジャズバンド「Earthworks(アースワークス)」(1986~2009)、イエス(1990~93)、さらにもう一度キング・クリムゾン(1994~2000)とバンド活動が多くを占めます。またその間を縫ってセッション活動も数多くこなし、その中にはジャズギタリストの渡辺香津美や作曲家の久石譲といった日本の音楽家とのセッションもありました。
2009年、60才になるのを機に仕事を減らし、2011年には演奏活動を引退しました。現在は音楽関連の講演や執筆、また自身のレコードレーベルの運営に力を注いでいます。

プレイスタイル

ジャズからロックと幅広いジャンルをこなしますが、いわゆる「パワーヒッター」ではありません。大変緻密なリズムパターンやフレーズを、とてもクールに演奏する印象です。特にドラムソロでは、ルーディメンツを駆使し、ポリリズムを多く取り入れて組み立てていきます。サウンド面ではスネアドラムをハイピッチにチューニングし、オープンリムショットを多用することで、自分のサウンドがバンド内で埋もれてしまわないよう工夫したそうです。また電子ドラム(当時はシンセドラム)を含むパーカッション類も効果的に用い、バリエーション豊かなサウンドを作り出しました。必要に応じて自分のスタイルを変えていけるのも特徴だと思われます。イエス時代は緻密に構築された曲に合わせてのドラミングを、1970年代のキング・クリムゾン時代は即興演奏がメインとなり、1980年代のキング・クリムゾン時代では電子ドラムを大胆に導入してパーカッション的なアプローチをしました。ブルーフォードのテクニック、センス、懐の深さには驚愕せざるを得ません。

https://www.youtube.com/watch?v=Hn4-ofDHk1k

セッティング

打面を水平にセッティングするのが好みのようです。1977年にREMO(レモ)社のロートタム(シェルのない打面のみのタム)を導入したことで、かなり水平なセッティングが可能になりました。1998年に電子ドラムからアコースティックドラムに移行してからは、ほぼ水平にセッティングしています。それを機に各楽器の配置が独特なものになっています。スネアドラムの左右に二つずつのタムを置き、スネアドラムの左側にあったハイハットをリモートハイハットでスネアドラムの奥に置きました。

使用機材

ドラム

1960年代後半~1980年まではLudwig(ラディック)社、Hayman(ヘイマン)社を併用し、セッティングも1タム+2フロア、または2タム+1フロアと比較的シンプルでした。1977年にU.K.に参加した頃から米REMO(レモ)社のロートタムを使用し始めます。1981年にキング・クリムゾン加入とともに英SIMMONS(シモンズ)社のシンセドラムを大胆に導入。ブルーフォードは1999年にシモンズ社が廃業する直前(1998年)まで同社の製品を使い続けたので、シモンズの最も使用期間の長いユーザーの一人として認知されています。またシモンズを導入したのと同時にアコースティックドラムはTAMA(タマ)社に移行しました。タマ社では2001年にシグネチャーモデルのスネアドラムが発売され、本人もそれを使い続けています。

ここでは1981年にシモンズ社のシンセドラムを導入した際のセッティングを紹介します。バスドラムとスネアドラムはアコースティックを使用していますが、タム類をシンセドラムにしています。シンセドラムの奥に6インチの深胴タムをセッティングしていますが、こちらは米Dragon Drums社(廃業)で透明なアクリル製です。右奥にはタマ社のゴングバス。ゴングバスは22インチのシェルに24インチのヘッドを張ることで独特のサスティーンを奏でます。

https://www.youtube.com/watch?v=mD7vyHujFio

SIMMONS社

1978年に設立された電子ドラムメーカー。世界で初めて「電子ドラムセット」を開発しました。ドラムパッドが六角形という奇抜なルックスも相まって1980代に一世を風靡したので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

ビル・ブルーフォード:ドラムセッティング

  • A. スネアドラム14×6.5 TAMA 8056(スチール)/14×5.5 TAMA AW456(バーチ)※1
  • B.ロートタム 14インチ REMO Roto Tom
  • C.バスドラム 22×14(詳細不明)
  • D.シンセドラムパッド SIMMONS SDS5(6個)
  • E.シンセドラムパッド SIMMONS SDS5 ※2
  • F.小口径深胴タム 6インチ(5個、深さ不明)Dragon Drums
G.大口径タム 22インチ TAMA Gong Bass Drum

シンバル

1960年代後半~1971年まではPaiste(パイステ)社とZildjian(ジルジャン)社を併用していましたが、それ以降はパイステ社のみを使用しています。1971~87年は同社602シリーズと2002シリーズ、Sound Creationシリーズを併用、1987年以降はSignatureシリーズを中心にSound Formulaシリーズ、Dimensionsシリーズ、Traditionalシリーズを織り交ぜて使っています。

  • 1.チャイナ 20インチ Sound Creationまたは2002シリーズ
  • 2.スプラッシュ 12インチ(2枚)Zildjian Avedisシリーズ ※3
  • 3.ライド 18インチ 2002 Power Ride
  • 4.クラッシュ 18インチ2002 Crash


※ ドラムのサイズは口径×深さ(インチ)
※ シンバルのサイズはインチ
※1. どちらかを使用
※2. ハイハットとして使用
※3. この時期のみ

アルバム

Fragile(邦題:こわれもの)/イエス

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1971年に発表されたイエス4作目のアルバム。全英4位、全米40位の売り上げで、代表曲「Round About(ラウンド・アバウト)」が収録されています。「ラウンド・アバウト」は日本のテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」のエンディングテーマに使われたことで、当時のイエスを知らない若い世代にも広く知られるようになりました。

Larks Tongues Aspic(邦題:太陽と戦慄)/キング・クリムゾン

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1973年に発表されたキング・クリムゾン5枚目のアルバム。全英20位、全米61位の売り上げを記録しました。ブルーフォードはこのアルバムからキング・クリムゾンに参加しています。これまでも音楽性や演奏技術の高さで注目や人気を集めてきたキング・クリムゾンでしたが、このアルバムからさらに「即興演奏」も加わり独自の方向性を確立していきました。抒情的で静かな曲からヘヴィーメタルのようなダークな曲など、幅広い音楽性を提示しています。中でも「Larks Tongues Aspic partⅡ」はとりわけ人気が高く、今でもライブの定番曲になっています。

U.K.(邦題:憂国の四士)/U.K.

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1978年に発表されたU.K.のデビューアルバム。ブルーフォードがキング・クリムゾン時代に一緒だったベーシストのJohn Wetton(ジョン・ウェットン)とともに結成したU.K.は、その他のメンバーも実力者ぞろいであったため「スーパーバンド」と称され、解散後の現在でも高い人気を誇っています。ジャズの即興性、ロックの躍動感、そして当時最新のテクノロジーがバランスよく融合され、衰退の一途をたどっていたプログレッシヴ・ロック界に希望の光を灯しました。