「John Bonham(ジョン・ボーナム)」氏は「Led Zeppelin」のドラマーとして活躍し、32歳という若さで亡くなってしまいますが、2016年の「ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のドラマー」をはじめ、多くのランキングにおいて第1位に輝くなどレジェンドドラマーの1人として今でも多くのドラマーに影響を与え続けています。数多くの逸話も残しており、まさにレジェンドドラマーと言える人物です。ジョン・ボーナム氏のキャリアや使用機材など様々な角度から解説していきます。
本名:John Henry Bonham(ジョン・ヘンリー・ボーナム)
愛称:Bonzo(ボンゾ)
1948年5月31日 イングランド ウスターシャー州レディッチで誕生。5歳でドラムを始めますが、当時は自分用の楽器が無かったため、空き箱や空き缶などをドラムセットに見立てて遊んでいました。その後、10歳でスネアドラム、15歳でドラムセットとパーカッションセットを両親からプレゼントされ、地元のドラマー達からアドバイスは受けていたものの、正式にレッスンを受けたことはなく、独学でドラムを学んでいきました。
この時代に生まれた多くのドラマー達は1930年代以降に活躍していたスウィングジャズを代表するドラマーである「Gene Krupa(ジーン・クルーパ)」氏や「Buudy Rich(バディ・リッチ)」氏に憧れていましたが、ボンゾ氏にとってもそれは同様であり、多大な影響を受けていたようです。他にも影響を受けたドラマーとしてはビバップを代表するドラマーである「Max Roach(マックス・ローチ)」氏も挙げられます。
15歳の学生時には「Blue Star Trio」、「Gerry Levene & the Avengers」というバンドに加入し、ドラムを叩いていました。
卒業してからは大工見習いとして父親の仕事の手伝いをする傍ら、地元でのバンド活動を継続、「Terry Webb and the Spiders」というセミプロのバンドに加入した事がきっかけで「The Nicky James Movement」 や「The Senators」といったバンドでドラムを叩く機会が増え、ボンゾ氏はドラマーとして生計を立てていくこととなります。
※The Senatorsの「She’s a Mod」が彼の初めてのレコーディング作品となっています。ちなみにこの頃、後の妻となる「パット・フィリップス」氏とも出会っていたようです。
その後「A Way of Life」というバンドを経てブルースグループの「Crawling King Snakes」に参加、この時に後の「Led Zeppelin」のヴォーカルとなる「ロバート・プラント」氏と出会い、ロバート氏が作った「Band of Joy」や「ティム・ローズ」氏のバックバンドでの経験を重ねていきます。
ボンゾ氏が所属していたバンドはいくつかありますが、正式なバンドメンバーとしての活動はほぼ「Led Zeppelin」でのキャリアのみと言えるでしょう。彼がバンドに与えた影響とその生涯を終えるまでを追っていきます。
1968年に「The Yardbirds」が解散した後、ギタリストの「ジミー・ペイジ」氏が立ち上げた新たなバンドのヴォーカルとして勧誘を受けていたロバート氏はドラマーにボンゾ氏を推薦し、他にも有力なドラマー候補はいましたが、ティム・ローズ氏のライブでドラムを叩くボンゾ氏を見ていたペイジ氏とマネージャー「ピーター・グラント」氏はボンゾ氏こそが適任だと確信します。
結成後すぐに行ったツアーではまだThe Yardbirds(もしくはThe New Yardbirds)の名を冠していましたが、バンド名を使用することができなくなったため、「Led Zeppelin」へ改名します。
※Led Zeppelinの名前の由来はボンゾ氏とも仲の良かった「キース・ムーン(The Who)」氏の口癖からと言われています。
1969年にリリースされたデビューアルバム「Led Zeppelin Ⅰ」はビルボードチャートで最高10位、イギリスでは最高6位という記録でしたが、ハードロック、ヘヴィメタルの元祖的なアルバムという見方をする方も多く、続いてリリースされた「Led Zeppelin Ⅱ」はアメリカ、イギリス両国において1位を記録、その後リリースされたアルバムも大ヒットし、1970年代には世界トップクラスのバンドになります。特にバンド最大のヒットとなった「Led Zeppelin Ⅳ」は全世界で3,700万枚を超える売り上げを記録、収録曲であった「Stairway to Heaven」はアメリカのロックラジオチャンネルにおいて最もリクエストの多かった曲にもなっています。Led Zeppelinは現在までに8枚のスタジオアルバムをリリースし、「The Beatles(約6億枚)」に次ぐ約3億枚の売り上げを誇り、歴史上2番目(ソロアーティストを除く)に売れたバンドとなりました。
そんな人気絶頂の中でしたが、度重なる大規模なツアーにより、満足に家族と会えなくなってしまったボンゾ氏はストレスによって大量の飲酒を行なっていました。(一説には飛行機恐怖症も持っていたと言われています。)1980年9月24日にリハーサルのためにスタジオに向かう途中でスクリュードライバー(シングルで16ショット相当のウォッカ)4杯を飲み干し、スタジオ内でも、その後のペイジ氏の自宅でも飲み続け、酔い潰れたためベッドで寝かされていましたが、翌日9月25日にベーシストの「ジョン・ポール・ジョーンズ」氏とマネージャーの「ベンジー・ルフェーヴル」氏によってベッドで動かなくなっているのを発見され、亡くなっていることが確認されました。享年32歳、吐瀉物が喉に詰まったことによる窒息死でした。(ボンゾ氏は過去ヘロインを摂取していたことがありましたが、この時には既に克服しており、検視においても薬物は検出されていません。しかし、不安や鬱に対する薬を服用していたとも言われています。)
ボンゾ氏を失ったLed Zeppelinは彼の代役は誰にも務まらないというリスペクトを込めてバンドを解散する選択を行います。その後、単発で何度か再結成を行なっていますが、継続的な活動は出来ておらず、ボンゾ氏がドラマーとしてだけでなく、チームの一員としての影響が大きかったことが窺い知れます。
Led Zeppelinがリリースしたどの曲においてもボンゾ氏のドラミングは際立っており、独特のグルーヴ感やブルースやジャズだけでなく、ファンクやラテンなどのリズムパターンをロックドラムに昇華することに成功しています。Led Zeppelinが上記のような大ヒットを生み出し、世界的なバンドとして成功できたのはボンゾ氏のドラミングによる影響が非常に大きく、そのプレイスタイルは多くのドラマー達に影響を与えています。その中でも特に代表的なフレーズや聴くだけでボンゾ氏を連想させるものをピックアップしてみました。
まずは「Moby Dick」。この曲はボンゾ氏のドラムソロのために作られた曲であり、ドラマーなら誰もが一度は見ることがある映像の1つです。ボンゾ氏の特徴はレンジの広いダイナミクスによる表現力にあり、ただパワフルで音量が大きいだけでなく、繊細なタッチも併せ持っていることが分かります。ボンゾ氏は様々な特徴的なフレーズを生み出して(世界的に広めて)いますが、手足のコンビネーションを多用したフレーズ(手手足の3連や手手足足の16分、1拍半フレーズなど)やジャズやラテンを感じさせるフレーズ、ドラムスティックではなく手でドラムセットを叩く、スネアのスナッピーを外して音色を変えるなどまさにバリエーションに富んだプレイと言えるでしょう。
最も有名なドラムパターンの1つと言えるのがこの「Immigrant Song」です。ボンゾ氏の特徴の1つにツーバスを彷彿とさせるバスドラムの連打がありますが、高速フットワーク(ダブルアクション)により、ワンバス、シングルペダルでもそれを実現しています。ダブルアクションには様々な奏法がありますが、ヒールトゥ奏法を使用していたと言われています。印象的なドラムパターンを作り上げるのも得意だったのでしょう。
こちらは映像無しの音源のみですが、ボンゾ氏を語る上で欠かせない曲の1つです。「ジェフ・ポーカロ(TOTO)」氏が「Rosana」という曲で用いた非常に有名なドラムパターンである通称「Rosanaシャッフル」というものがありますが、この「Fool in the Rain」のドラムパターンからヒントを得て作られました。(同じく「バーナード・パーディ」氏の「パーディシャッフル」からもヒントを得たとされています。)ゴーストノートを使用したこのシャッフルはルーディメンツをしっかり取り組んでいないと難しいパターンであり、ボンゾ氏のスティックコントロールの上手さを窺い知ることができるでしょう。また、この曲もラテンフィールなフレーズも盛り込まれており、表現力の高さやアレンジ能力を感じることもできます。
最後に紹介するのは通称「頭抜き3連」と言われている3連符の2つ目、3つ目でバスドラムを入れるフレーズを多用している「Good Times Bad Times」のドラムトラックです。現代のドラムセットやキックペダルでも難しいフレーズであり、息子であるジェイソン氏でも最初の頃はツーバスで表現していたほど。ボンゾ氏はそれを26インチのバスドラムと当時のキックペダルで演奏していたのには驚きが隠せません。
ボンゾ氏は初期の頃にツーバスを使用していたこともありますが、キャリアのほとんどはシングルバスでプレイしており、使用していたドラムセットやシンバル、セッティングは一貫してシンプルな構成です。このセッティングにおいても影響を受けているドラマーは多いでしょう。
初期の頃は「Premier」などのドラムセットを使用していましたが、ツアーで「カーマイン・アピス(Vanilla Fudge)」氏と仲良くなったことがきっかけで「Ludwig」を紹介してもらい、それ以降Ludwigの様々なシリーズのドラムセットを愛用しています。メイプルキットは「ナチュラル」「グリーンスパークル」「シルバースパークル」を使用していたことが確認できます。ヴィスタライトはアンバーが有名ですね。タムタムは年代によって13″ × 9″や14″ × 10″などの大きさのものも使用していますが、総じてかなり大きめのタムを使用していたことが分かります。
タムタム | 15″ × 12″ |
フロアタム | 16″ × 16″ 18″ × 16″ |
バスドラム | 26″ × 14″ |
スネアドラムは名器「LM402」を使用。このスネアドラムが有名になったきっかけの1つとしてボンゾ氏が愛用していたことが挙げられます。
シンバルは一貫して「Paiste」を使用していました。初期の頃は「Giant Beat」シリーズを使用しており、1971年以降はその年に発売された「2002」シリーズを使用しています。左手側にセットしていたシンバルは18″が多いですが、16″の時もあったようです。
ハイハット | 15″ Sound Edge |
クラッシュ | 18″ 20″ |
ライド | 24″ |
ゴング | Symphonic Series 38″ |
ボンゾ氏が使用していたペダルは踏んだ時の軋んだ音がしていたことから「Squeak King」と呼ばれていたことも。ビーターはフェルト、ウッドを使用していたようです。
Ludwigのハードウェアではボンゾ氏のパワーに耐えられなかったため、「Rogers / Swiv-O-Matic」のハイハットスタンドやシンバルホルダー、タムホルダーを使用していました。
チンリングはハイハットの上部に取り付けてハイハットフットワークの際にジングルサウンドを追加する楽器です。
ビスタライトのドラムセットを使用していた際はクリアドットタイプを好んで使用していました。
太くやや重めなヒッコリーのドラムスティックを好んで使用していたようです。
ボンゾ氏のドラミングを聴くことができるおすすめのCDを紹介します。
Led Zeppelinが初めてアメリカ、イギリスで音楽チャート1位を獲得したのがこのアルバムであり、ハードロック、ヘヴィメタルを確率させたアルバムとの呼び声も高く、音楽ジャンルや後続のバンドに与えた影響は計り知れません。特にボンゾ氏のドラミングによってハードロック色が強まっているのは言わずもがなですが、様々なパターンやアプローチが垣間見えます。王道な「Whole Lotta Love」や「Heartbreaker」だけでなく、途中で曲の雰囲気がガラッと変わり少し縦ノリななビートが気持ち良い「The Lemon Song」、他にも「Living Loving Maid」や「Bring It on Home」などのキャッチーなサウンドでR&Bやファンクを感じられる曲もありバリエーションに富んでいます。そしてドラムソロが収録されている「Moby Dick」は必聴でしょう。
Led Zeppelin Ⅱを…
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Led Zeppelinのキャリアの中でも最も売れたアルバムがこの「Led Zeppelin Ⅳ」です。8曲入りと少なく感じるかもしれませんが、全てが名曲と言っても過言ではない人気曲ばかりであり、「Black Dog」や「Rock And Roll」などややハードロック色が強いストレートなドラミングが多く、誰にでも聴きやすいアルバムのため、まだ聴いたことがない方はこのアルバムから入るのもおすすめです。特にロックバラードの代名詞とも言える「Stairway to Heaven」のドラムプレイは圧巻の一言、「When The Levee Breaks」のブルージーなグルーヴも感じて欲しいですね。
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「Led Zeppelin Ⅲ」はアコースティックな曲も多かったため、賛否両論分かれるアルバムとも言われていますが、ボンゾ氏のドラムプレイにおいては様々なジャンルを吸収したパターンを聴くことができるため、非常におすすめな1枚となっています。ボンゾ氏の最も有名なドラムパターンの1つである「Immigrant Song」に始まり、ロックンロールやファンク、バラード、カントリーなど多様なジャンルのプレイを聴くことができます。あまりアコースティックにアプローチするイメージは持たれていないですが、その類まれなる表現力はこういったジャンルにもマッチしたプレイを生み出していることも忘れてはいけません。
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Wikipedia:John Bonham、ジョン・ボーナム、Led Zeppelin、レッド・ツェッペリン、Jimmy Page、Robert Plant、John Paul Jones
Media:Led Zeppelin Official Web Site、JohnBonham.co.uk、Drummerworld
書籍:Bonham by Bonham: My Brother John(Mick Bonham)、John Bonham: The Powerhouse Behind Led Zeppelin(Mick Bonham)
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